実はこの会社、従業員の3/4が……なんです!!そこから知る、異なる立場の人への接し方

昨今、日本の労働状況は、以前のそれとは大きく変わってきています。

昨年12月に発表された、2014年の「就業形態調査」によると、
民間事業者に勤める労働者のうち、非正規社員がついに40.5%に達しました。

非正規雇用で労働にあたる人たちが近年の日本で話題になり、様々な問題がテレビや新聞で指摘されていますね。

そんな中、今回は“働く”ことをちょっと違う目線で捉えている会社を紹介したいと思います。

それは、神奈川県川崎市にチョーク工場がある、日本理化学工業株式会社です。

この会社は、みなさんも一度は触ったことのある、黒板で使うチョークを作っており、
それも昔と違って、粉が飛ばないタイプのダストレスチョークというものを製造しています。
現在はホワイトボードなどで使い、濡れた布で拭けば消せるマーカー「キットパス」を基幹に据えた事業を展開しています。

そしてなによりも実はこの会社……

勤める従業員のおよそ75%という、大多数の人たちが知的障碍(しょうがい)を持っている人たちなのです。

「え…?それで会社って成り立つの??」

真っ先にそう思ったことでしょう。
確かに、知的に障碍を持っている人たちの就職先が極めて少ない日本では、例えば女性は性風俗などがその就業の受け皿となっているような現状があります。
そういった現状の中、この会社は1960年から障碍者の雇用をし続け、現在61人の知的障碍を持った人たちを雇用し、経営をし続けているのです(全体80人)。

これには、ちゃんとした理由がありました。

きっかけは、現在同社会長である大山泰弘さんのところに、東京都立青鳥養護学校(当時)の先生が訪ねてきて生徒の就職をお願いしたことだったそうです。


(現在は東京都立青鳥特別支援学校となっている。)

その時、大山さんは、「精神のおかしな人を雇ってくれなんて、とんでもないですよ」と断りましたが、養護学校の先生がこう返したといいます。

「あの子たちはこの先、15歳で親元を離れ、地方の施設に入らなければなりません。
そうなれば一生、働くということを知らずに、この世を終えてしまうのです」

その言葉を聞き、ひとまず2週間の就業体験を受け入れることにしました。

そうして就業体験にやってきた2人の女性にシール貼りの仕事を任せたところ、
昼休みのベルが鳴っても手を止めようとはしなかったそうです。
そしてなにより、その様子は熱心だったといいます。

その頑張りを見ていた社員たちは、「雇ってあげてください」と言い、「社会から外れた存在」だった彼女たちを、同情心から雇ったと、大山さんは振り返ります。

彼女たちは一生懸命に仕事に励み、たまに言うことを聞かないときに「施設に帰すよ」というと泣いて嫌がったそうです。
大山さんは、疑問に思いました。

“どうして、施設にいれば楽に過ごすことができるはずなのに、つらい思いをしてまで工場で働こうとするのだろう?”

その答えは、ある日出会った禅寺の住職が持っていました。

住職はこう言ったそうです。
「人間の幸せは、ものやお金ではありません。人間の究極の幸せは、次の4つです。

 人に愛されること。
 
 人にほめられること。

 人の役に立つこと。

 そして最後に、人から必要とされること。」

これを聞いて、大山さんは納得したそうです。
健常者は、社会や他の人たちとの関わりを通じて、「ありがとう」と言ったり言われたりということがあるけれども、
障碍者は、施設で「ありがとう」と自分たちが言うことはあっても、言われることはほとんどないかもしれないと思ったからです。

現在、この会社の製造ラインのほぼ全てを障碍者の社員が担っています。
それはひとえに、文字や数字がきちんとわからなくても、色などで理解・識別できるように工程を工夫し、「作業目標」という概念を彼らが受け入れられるようになったからでしょう。

大山さんは言います。
「彼らの理解力に合わせた仕事の方法を考えてあげれば、安心して持てる能力を発揮して、生産性も決して健常者に劣らない戦力になってくれるのです。大切なのは、働く人に合わせた生産方法を考えることなのです」

加えて大山さん、とくに社員教育はしていないという。
健常者は障碍を持った人たちの理解力に合わせて仕事を用意し、
彼らが持つ「周りの人の役に立つことで幸せを感じる『共感脳』」を信じて、
成長を待っていればうまくいくと考えているとのこと。

「障碍者の存在は無視できないけれど、どう付き合っていけばいいかわからない」という人は、日本に多くいるんじゃないかと思います。
そういったなかなか触れられないテーマを、“働く”ということを通して解きほぐした大山さんのやってきたことはそう簡単なことではないですが、自分とは異なる立場にいる人たちを思いやることはやはりどんな時も大事だと思わせてくれますね。

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